結婚した初めての年。だからこそ、最初はそれぞれの実家で両親に感謝の時間を持とう。ということで年末の少しの間、千明は福岡に、俺は佐渡ヶ島に滞在することにした。エルシャンでの仕事納めの翌朝、北上開始。クリスマスイブのホーリーモーニング。車の助手席を、移動中は基本的に開放しているので、よく、たまに、知らない人が座る。今回は以前に連絡をくれた30代の女性が乗り込んだ。

漫画の続きも、映画の内容も、事前に知っていた方が見るのが楽しみになる癖の俺。でも、会う前の相手のことだけは知りたいと思わない。会いましょう!と連絡を取り合って会わないことも、晴れだよと聞いて雨の時も、雨だと聞いてレインボーな時も、ある。見ず知らずの相手のことを気にしても(気にはなるけど)しょうがないしね、と思っていたら、待ち合わせのコンビニ前に、朝6時、Mさんを発見した。

徹さん!ちあきさんのブログで、徹さんの事を知り、徹さんの言葉にとても響かせていただいています。いつもありがとうございます*生き方、考え方、素敵だな、って思います。 見ず知らずの人間が、 失礼極まりないこと承知でお願いがあります! 決断を決めかねていることがあって、 自分の思考の枠よりも広い人、この人の考え方自由でいいな、と思っている人の視点の意見を聞いてみたい!、と思っています。 ご相談をさせていただくことは、できないでしょうか? よろしくおねがいします!

どうぞ。と言って聞いたMさんからの相談は自分の国語力では受け止めきれないボールだった。ので、質問の意図をちょきちょき脳内トリミングして、感で、返信する。「そーいうとき自分なら、佐渡に行きます。木をパキパキ折ってマッチをこすって火をつけたり、夜の海で裸足になって足をつけたりします。」実際、めちゃくちゃ明後日の方向にボールを投げ返したと思う。けれど、なんだか行ってみたくなりました、とのことだった。

コンビニから車を走らせること10分。信号待ちをしながら通りに目をやると、ある看板が目に飛び込んでくる。

あ、漫画BARだ。行ったことはない。けれど音読してしまう力がこの店にはあるね。などと談笑している間に、ぽつんと歩道をゆく黒髪の美しい第一町人がその店の真ん前で停止した。人のいないこんな冬の朝。まさか、あの子が店長!?と、謎の探究心が発動をしたのでじろじろ凝視していたら、なんのことはない、その子も、扉にある張り紙を覗いていただけだ。

ん、あれ、いや、でも、すごくない!?だって、俺たちが気づいた瞬間にあの人も全く同じ感じで「あ、漫画BARだ」ってなっていたよねえ!?しかもこんな早朝。これはあれですね。千明がラブキャッチってのをやってますけど、カムキャッチで言えば、あれです。メタ認知ってやつです。今回の佐渡ヶ島というか、Mさんとの佐渡ヶ島のテーマはメタ認知ですというメッセージを嘉向がキャッチしました。

夜のテンションを朝に持ち越してしまったくらい意味不明な言葉を連発した気もするが、別にいい。初対面だから(謎)。それから、車で7時間、船で2時間かけ、佐渡ヶ島に着く。島には雪がしんしんと降り始めていた。

島での数日間、Mさんとは色々なことを話した。けれど、話した内容はほとんど覚えていない。基本、話を聞いていないからだ。そんな俺に、Mさんは小動物に話しかけるように思いのままに語ってくれた(気がする)。

ついやらかすことが多いこと。それをいつまでも気に掛けること。人に気を遣うがあまり、その人と距離を置きたくなること。離婚をして不安になっていたこと。高額コンサルを受けたけれど途中辞退してしまったこと。人の言葉を受け売りしてしまうこと。人の考えをすぐ真似して、自分の考えのように披露してしまうこと。

話を聞いていて、きっと人よりもできないことがほんのすこし多かったのかな、と思った。相手を想うがあまり自分はダメだと思い、自分はダメだと思うたびに、その失敗体験が次の一歩を曇らせる。誰かの言葉が自分の言葉よりも光るなら、それは飛んだ勘違いですよ。あなたの言葉はあなたが使うべき言葉。頼りなくとも、あなたが使ってあげるべき言葉なんです。お嬢さん。と、紳士風に告げるイメージだけはした。

「オノマトペに注意しましょう」と提案する。オノマトペというのは雨がザーザーとか羽がバサバサとかそういう類の擬音で、それに五感を澄ませる。俺も自分を落ち着かせるために頻繁にやっているやつである。葉っぱを触ったり、地面に頬をこすり付けたり、雨の音をかなり真剣に聞いたりする。これはどんな感触かなと確かめ、さらに、オノマトペに変換するところまで、じっくり考える。この世で、自分なんてものが一番よくわからないものだと思う。難しい、でも、触れたい。だから、ほんのすこし、ほんのすこしずつ、膨大な量を積み重ねてから挑むのはどうだろうか。

雪の溶けた肌に風が当たると刺されるように冷たい、というオノマトペ。森で木を集めるオノマトペ。それらを折り、くべるオノマトペ。ダンボールで火をつけるオノマトペ。雨では濡れてしまう枝も、雪ではあまり濡れない。火はあっという間に辺りを明るく照らした。

オノマトぺとメタ認知は似ている。どちらも、感じることを感じる、必要があるからだ。漫画BARに立ち止まったあの子の後ろ姿は客観的に見た自分の後ろ姿でもある。自分を見ること。困難だけど、大切だ。

出発日前夜、急に風が止んだ。心が踊る。ここでは風がないということがめちゃめちゃデカイ。庭の隅ですでにMさんは焚き火をしている。持って行ったスピーカーで音楽を流していると、雲間から星が覗く。最初に流れ星を見たのはMさんだった。滞在中、オノマトペを感じに行きます、と1人で散歩したり、1人で車を運転して海に遊びに出かけたり、寒い中、活動的に動いてくれたMさん。おかげで自分もゆっくり過ごせた。最後の夜ということで、海へお誘いした。

三日月のように弧を描く夜の砂浜に、桟橋が伸びている。昼間なら映えるスポットなのだけれど、夜に尋ねたら、もっと良かった。波のうっすら白く、巨大なアーチが押し寄せて、桟橋から羽根が生えているように見える。まるで、岡本太郎の太陽の塔のようだった。不気味で、美しい。Mさんはとにかくはしゃぎ倒していた。家に戻った後も、先ほどの海へ写真を撮りに行きたいとつぶやいていたので、どうぞ、と言って、寝た。

朝7時頃、窓の外からエンジン音が聞こえた。出発も間近だというのに、大きな一眼レフを構えて海に行ってきたらしい。Mさんは言う。あの景色を見たとき、久しぶりに写真が撮りたいと思えたんです。その気持ちが久しぶりでとても嬉しかったんです。

出発の荷支度を急ぎながら、おーそれは良かったですね。あなたの言葉が誰かを動かすという、大きな奇跡。そしてそれがあなた自身であるという、もっと大きな奇跡。自分という相手は刺激的ですね。お嬢さん。と、紳士風に告げるイメージだけはした。

明日死ぬかもしれない。

@torusharing

寒くて寒くてヤバいけど、その分、暖かい。やっぱ冬はあったけぇ〜☃️🐳

♬ My Heart Will Go On (Titanic) – Maliheh Saeedi & Faraz Taali